マイカルハミングバード通信

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10年前の奨学金には時効成立による債務免除が可能


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延滞金・利息・元本すべて払え。1円だってまけない。支払能力があるかどうかなど関係ない。払いきるまで年利10%(一部5%)の延滞金をつけて払え――日本学生支援機構がやっているのは「奨学金」という名の学生ローンだ。その強気な回収ぶりを筆者は異様に感じていた。そこまでやるからには根拠によほどの自信があるのだろう、とも思った。ところが実は必ずしもそうではないことがわかってきた。時効を過ぎている債権を堂々と請求する、50年払っても終わらず逆に増えていく、というようなこと平気でやっている。サラ金顔まけのあこぎな取り立ての実態を、東京で発覚した2つの例から報告する。

◇315万円請求、じつは93万円
 報告に先立ち、日本学生支援機構の「奨学金」という表現について述べておきたい。奨学金(scholarships , grants)とは、国際的にみれば返還不要の給付型をさすのが普通だ。借りて後から返すものは、公的なものであっても「学生ローン」(student loan)といって区別する。
 日本学生支援機構が「奨学金」としてやっているものは、返還を要するものだから、本来は学生ローンというのが正しい。「奨学金」という名の公的学生ローンだという点をはっきりさせるために、カギかっこをつけて「奨学金」と表記する。

 さて、最初に紹介するのは都内在住の男性Cさんの例だ。2012年3月、筆者は、東京地裁の法廷で、偶然、Cさんの裁判を傍聴した。Cさんは、日本学生支援機構から「奨学金」の返還を求めて訴えられていたのだ。

 傍聴人のほとんどいない法廷で、裁判官とCさんの間でこんなやり取りが交わされた。

 裁判官 総額92万8100円を毎月1万2000円ずつ78回払い。という原告の和解案ですが。

 Cさん 1万2000円だと年収の10%を超えてしまう。できれば毎月1万円の93回払いにしてほしい。

 裁判官 じゃあ、間をとって1万1000円でどうですか。

 Cさん おまかせします。

 これで即決か――傍聴席で、筆者は思った。しかし原告席の日本学生支援機構の代理人は、歯切れ悪く言った。

 「1万1000円でも、こちらで決裁をとらないといけないんで。次回(弁論)で再検討したほうがよさそうです…」

 (何のために弁護士が出てきているのか)

 筆者はあきれた。月額1万2000円を1万1000円にするという、その程度のことで、いちいち持ち帰らないと決められない。いったい何のために弁護士が出てきているのか。

 それでもCさんの表情は、明るかった。そのわけは閉廷後に話を聞いてわかった。実は機構が訴訟(支払督促)を起こしてきた当初の請求額は、315万円だったのだ。元本が163万円、延滞金と利息が152万円の315万円を払え、といわれていた。ところが最終的には3分の1以下の92万8100円になり、和解のめどがたったのだ。

 筆者は驚いた。日本学生支援機構は、1円も負けないという強硬姿勢を常としている。300万円以上の請求が100万円以下になるなど、聞いたことがない。どんな事情があるのか、詳しく聞いて、さらに驚いた。


関東地方での日本学生支援機構の取り立て訴訟は、熊谷総合法律事務所(熊谷信太郎弁護士ほか)が、随意契約によって一手に引き受けている。契約書を情報公開請求したところ、弁護士名が墨塗りで開示された。
◇時効を迎えていた
 「時効」――それが315万円が93万円に減った理由だった。

 日本学生支援機構の債権は、民法の規定により支払いのない期間が10年以上あった場合には時効が成りたつ。

 Cさんの場合、支援機構から請求された315万円のうち、200万円以上がこの時効を迎えたものだったのだ。Cさんの指摘を受け、日本学生支援機構は、請求額を「315万円」から「93万円」に変更したのだった。

 時効のからくりをCさんが知ったのは、無料法律相談の「法テラス」を通して弁護士に相談したのがきっかけだった。書類を調べた弁護士は、すぐに「時効」に気づき、「時効の援用を主張しなさい」と的確な助言をした。

 時効は「時効援用」――つまり、時効の適用を主張すると意思表示をして、はじめて有効になる。だから、黙っていれば時効であっても払わされる。もしCさんが法テラスに行っていなければ、315万円の借金を背負わされた可能性が高い。

 そもそもCさんの「奨学金」滞納には、以下のような事情があった。意図的に払わなかったわけではない。てっきり払い終わった、と思っていたというのだ。

 1980年、都内の私大法学部に進学し、学資として「奨学金」を月2万数千円借りた。4年間で計約100万円。加えて、成績優秀者だけに支給される「特別貸与奨学金」を57万円、受給した。こちらは本来、返済しなくていいものだった。

 大学卒業後、Cさんは名古屋にあるリゾート開発の会社に就職する。給料の口座から「奨学金」の返済金を引き落とす手続きをすませ、あわただしく社会人生活を送っていた。返済予定は、10回ほどの年賦払いだった。


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